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  • 社説:潮目
  • 25.08.27

コース料理に大切なリズム 顧客目線で気を配れるかどうか

 都内にある一ツ星のフランス料理店のシェフと知り合いになってから、もうすぐ10年になる。フランスの三ツ星などで修業の後、北欧のレストランも経験してきた。寒さの厳しい北欧では、冬を乗り切る保存食として発酵食品が一般的だ。北欧時代に学んだ発酵に関する知識を活かした彼のシグネチャーが、【発酵マッシュルーム】のスープだ。
 マッシュルームは、シェフの出身県の農家から直接取り寄せている。フレッシュなスライスなどを入れたお椀型の食器の中に、発酵したマッシュルームから作ったスープを注いでいく。気温、湿度などによって発酵具合は異なり、味にばらつきも出るという。クオリティを安定させるために、状態を見極めながらスープにする。濃厚なスープに絡んだ、フレッシュな香りも楽しめる一品である。
 最近、久々に店に訪れた際、この料理が変化していた。以前に使用していた食器と比べて若干小ぶりに。シェフ曰く、「厨房から様子を見ていると、コースを食べるリズムが発酵マッシュルームの時にどうしても崩れてしまうことが気になった。他の料理は、大体5口前後で食べきれるリズムになっているのに対し、発酵マッシュルームの場合、スープを飲み干すまでに20口程度かかっていた。アラカルトであればそれでいいとしても、コースとして考えた場合、全体のリズムを崩さないように配慮するのは当然。」
 フランス料理のコースで、全体のリズムは非常に重要なポイントだ。もともとこの料理は、熱いスープをテーブル上で食器に直接注ぐスタイルをとっているが、20口かかるとなればその間に冷めてしまう可能性も出てくる。また満腹感が早く訪れてしまい、その後の料理への印象も薄れていく。塩味のある発酵スープであれば味覚も疲労していき、コース全体も間延びすることとなる。とは言え、シェフのシグネチャーであり、この一品に魅了されている顧客も少なくない。それでもリズムを大切にして変化を辞さないという姿勢は、さすが星付きと言ってもいいだろう。
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、8月21日号)