LISTEN to KEYMAN
キーマンに聞く

生成AIを安全に使う【リフト法律事務所 弁護士 川村 勝之氏】
ブライダル現場でAIを活用する流れが加速している状況で、課題となるのが社内ルールの整備だ。汎用AIを個人ベースで気軽に使っている時代に、例えば新郎新婦の情報の入った質問をプランナーが何気なく問いかけてしまうのは、個人情報保護の観点で企業としてリスクも伴ってくる。そこで、他業種企業も含めて、セミナーや研修依頼が殺到しているリフト法律事務所(千葉市中央区)の川村勝之弁護士に、注意すべきポイントを聞いた。
――ブライダル業界でも様々な専用AIが登場しているほか、さらにスタッフが気軽に汎用AIを駆使していますが、そこには法的な面で様々なポイントがあるそうですね。
川村「実際に様々な業種の企業から、弁護士の立場で企業内ルールの整備に関する研修をして欲しいといった依頼が舞い込んでいます。現在は企業内部の整備が追いついていない状況であり、どのようにルールを設けるべきか、どのようなリスクが存在するのかといった裏側の部分に焦点を当てた内容を求められています。生成AIを活用したサービスにおいて、法的な論点として主に挙げられるのは個人情報保護と著作権。入力するデータの中に個人情報が含まれるケースもあり、また生成されたアウトプットについても著作権との関係はリスクとなる可能性も出てきます。」
川村「個人情報に関しては、企業が顧客情報を取り扱う場合、個人情報保護法上の義務を負う事業者となります。仮に情報漏えいが発生した場合には、個人情報保護委員会への届け出義務も生じ、この点について十分に認識していない企業も少なくありません。さらに、AIサービスごとに利用規約や暗号化の状況は異なり、入力したデータが学習に使われるサービスと、使われないサービスが存在するものの、、その違いを理解していないケースも見られます。企業の業種や取り扱う情報の内容によって、入力しても安全な範囲を適切に判断する必要があります。」
――ルールを整備していないために、個人で思わず情報漏えいしてしまっている可能性もあるとのことですね。
川村「従業員個人の判断でAIツールを利用し、企業が把握しないまま情報が外部に送信されてしまうリスクはあります。だからこそどの情報の入力が許容され、どの情報は入力禁止なのかを明確に区分しておくルール作りは必要。ブライダル業界においても、新郎新婦やゲストの情報を扱う業務は多く、生成AIとの相性が高い一方でリスクも顕在化しやすいと言えます。具体的に、席次表の作成、ゲストリストの整理、招待状の作成といった業務の中で個人情報を入力してしまうことも出てきます。また進行表や演出イメージの作成においても、個人情報が含まれている場合はあります。これらの業務を効率化する目的で仮に個人で生成AIを利用する場合でも、入力内容によって法的リスクは生じます。」
――金融系などの大手企業では、従業員の仕事に関するAI利用そのものを禁止しているケースもあるそうですね。
川村「ブライダル業界における典型的な事例としては、プランナーが顧客からのメール内容をAIに入力し、返信文を生成するケースがあります。このような場合、個人情報を含む内容も外部サービスに送信されるリスクとなります。実際に生成AIに関する法的課題は他業界でも同様に発生しており、相談件数は増加傾向。と言うのも多くの企業では管理職層がAIに関する知識を十分に持っておらず、その結果として社内ルールの整備が遅れている状況によります。対応策としては、まず利用するAIサービスを選定し、そのサービスごとに利用可能な範囲を明確にすること。次に、個人情報をそのまま入力するのではなく、仮名化や匿名化を行う運用を徹底し、マーケティング用途や文章生成用途など、用途別にルールを整備しておく必要があります。さらに、ルールを策定するだけでなく、従業員に対する教育や啓発を行い、理解を前提とした運用体制を構築する。場合によっては、従業員の個人利用に関するルールも定める必要があります。」
――著作権に関するリスクはいかがでしょうか。
川村「クリエイティブ領域で顕著です。デザインや広告用画像、マーケティングビジュアルをAIで生成する際には、その生成物が既存の著作物に依拠していないか、あるいは酷似していないかを確認するプロセスは不可欠。既存作品との類似性の高い場合には、著作権侵害と判断される可能性もありますから。またプロンプトの設計次第では、既存作品に近似した生成物を作ることも可能であるため、どのような生成方法が適切であるかを企業側で理解しておく必要があります。AI生成画像を企業利用する場合には、キャラクターや特定の風景、著名な絵画などを想起させる要素は含まれていないかをチェック。ブライダルであれば、ドレスデザインにおいても、特定ブランドを想起させる場合にはリスクも生じ、事前の確認は大切です。」
――企業のリスクヘッジ面から大切ですね。
川村「生成AIの活用は、業務効率化や人手不足対策の観点から今後さらに進むのは確実。一方で、制度やルールの整備は十分に追いついてなく、現時点は過渡期にあります。利用するサービスの安全性を確認し、入力情報の範囲を明確に定めることが、企業にとって重要な対応となるでしょう。実際に個人情報漏えいや著作権侵害が発生した場合には、民事上の損害賠償責任も生じます。また悪質なケースでは刑事責任を問われることもあります。実際に生成AIを利用した生成物について著作権侵害による逮捕者が出た事例も存在します。加えて、法的責任にとどまらず、企業の信用低下というリスクも無視できません。社会的評価の毀損は事業継続にも影響を及ぼすため、AIの活用にあたっては利用規約や仕組みを正確に理解し、適切なルールのもとで運用することが求められます。」
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、3月21日号)

