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キーマンに聞く

若手コンクールで全国1位【ホテル椿山荘東京 洋食レストランチーム「イル・テアトロ」「ザ・ビストロ」 佐藤愛莉氏】

若手コンクールで全国1位【ホテル椿山荘東京 洋食レストランチーム「イル・テアトロ」「ザ・ビストロ」 佐藤愛莉氏】

 高校卒業後の進路を考える中、自炊する機会が多かったことから、料理を職業にしようと調理師学校へ進んだ、ホテル椿山荘東京(東京都文京区)の佐藤愛莉氏(現23歳)。日本料理を好んでいたが、学校のフランス研修を機にフランス料理の道を選んだ。卒業後は、和食とフランス料理を組合わせた婚礼料理に魅力を感じ、2024年に同ホテルへ新卒入社。先輩から「第44回フランス料理最優秀見習い料理人選抜コンクール」の話を聞き、料理長にも背中を押されて出場を決意し、1位に輝いた。時間管理や火入れ、受賞後の食材への向き合い方、婚礼料理への姿勢を佐藤氏に聞いた。

先輩の支えで練習重ねる

自分に合う調理法を追求した

≪家庭料理から調理師学校へ≫

佐藤「料理人を目指した明確な出来事があったわけではないものの、両親が共働きだったことから自炊をする機会は多くありました。だったら料理を趣味で終わらせず職業にしてみようと考え、調理師学校への進学を決めました。当初は和食が好きで、日本人として生まれたなら日本料理を学びたいという気持ちがありました。進路が大きく変わったのは、調理師学校のフランス研修です。現地で実際に料理を食べ、フランス料理の格好良さに惹かれ、その道を選択しました。就職先を考えていた時、人生の大切かつ輝かしい日に提供する婚礼料理に興味があることを学校の先生に相談。ホテル椿山荘東京を紹介してもらいました。また、和食とフランス料理を組合せた婚礼料理を提供していたのも魅力に感じ、どちらのジャンルにも取組みたいと入社を決意しました。」

≪時間を読む難しさに直面≫

佐藤「入社後配属されたのは、前菜などに携わるポジション。味を決めるその前段階となる、食材の切り分けなどを担当していました。難しかったのは、時間を見ながら動くこと。進行に合わせ決まった時刻に決まった量を出す必要がある一方、早く準備しすぎれば料理の味が落ちてしまいます。自分の作業にどのくらいの時間がかかるのかを把握し、逆算して動くことが求められました。」

佐藤「最初に配属された部署の先輩から、若手向けコンクールの存在を教えてもらいました。その先輩自身も出場経験があり、料理長からも背中を押してもらったことで、エントリーを決意。初めは大会の規模まで十分に理解していたわけではなく、感覚としては『やってみるか』というくらいでしたが、出場するからには総合1 位を取りたいと、準備を進めました。大会では決められた食材を使い、魚料理、肉料理、デザートの3品を制限時間内に仕上げます。どの作業をどの順番で進め、時間内に完成させるのか。そこを見極めることが自分にとって一番の課題でした。」

≪課題を1つずつ分解する≫

佐藤「練習期間は約1年。その日に何をできるようにするのか毎日目標を明確にして取組み、1回ごとの質を高めることを心掛けました。集中力の続く限り厨房で練習を重ね、仕事後に1人で残る日もありましたし、業務が落ち着いている時には、先輩達も練習に付き合ってくれました。同じ料理を食べ続けていると自分では味の判断が難しくなることもあるので、先輩に試食してもらい意見を聞けたのは、味を見直す上で大きかったと思います。」

佐藤「魚料理で課題になったのは、ふたをして火を入れる際、上側と下側で身の食感に差を出さないこと。ゆっくり火を入れれば差は抑えられるものの、その分、ソースを煮詰める時間が少なくなります。火入れだけをゆっくりすればいいわけではなく、全体との兼ね合いを考える必要がありました。肉料理のソースについても、赤ワインの味を強くした方がいい、野菜の味を感じさせるべきなど、試食する人によって好みは異なります。全ての意見を反映させずに、最終的には自分が1 番おいしいと思える味を出したいと考え、赤ワインだけを強くするのではなく、その甘みと野菜の甘みを生かす方向にしました。中でも最も苦労したのはデザートのプリン。プリン液と周囲の湯の温度差を小さくすれば、きれいに仕上がります。一方、ゆっくり火を入れると制限時間に収まらず、温度を上げれば食感が変わってしまう。わずかな温度差で仕上がりが変わるため、試行錯誤しながら50個ほど作り、最適な温度を探りました。」佐藤「料理長からは『なぜ、それをするのか』と繰り返し問われました。『一つひとつの作業の意味を理解しなければ、上達にはつながらない』と。過去の出場者と同じ方法を試しても、同じ仕上がりになるとは限りません。自分に合うやり方を見つける必要性も学びました。」

≪食材一つひとつを意識≫

佐藤「本番では大きな失敗もなく、肉料理はそれまでで1番とも言える仕上がり。部門賞から発表され、最後に総合1位で呼ばれた時は信じられず、『私ですか』という感覚でした。応援に来ていた社内メンバーは、私以上に喜んでくれました。普段は厳しく指導してくれた先輩のガッツポーズも印象的で、料理長にも良い報告ができました。」佐藤「受賞後は、食材一つひとつの特徴を以前より気にするようになりました。食材の名前一つを取っても、なぜこの名称なのかと考える機会が増えています。盛り付けの部署から肉の焼き場に移り、時間に迫られる場面を多く経験したことで、以前より時間を読めるようになってきた感覚もあります。7 月からはレストランの部署に異動し、魚・肉料理の付け合わせ、料理の仕上げや盛り付けを主に担当しています。」

佐藤「今後も、顧客に喜んでもらうことを忘れない料理人でありたいです。入社当初から、『食べる人の顔や気持ちを思い浮かべながら料理を作る』と教わってきました。厨房で料理を続け、表に立つ機会が少なくなると、その目的を忘れてしまうこともあるかもしれません。特に婚礼は、新郎新婦がお世話になったゲストに提供する料理で、一度に60~100名分近くを提供します。それを単なる“作業”にしてはいけない。一皿一皿は誰かにとっての大切な料理だからこそ、全ての料理で品質を下げないことを、今後も意識していきたいです。」