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空間デザインの4つのステップ【ザ ホールデザイン 代表取締役社長 杉山 敦彦氏】

空間デザインの4つのステップ【ザ ホールデザイン 代表取締役社長 杉山 敦彦氏】

 AIでも結婚式場のデザインを描ける時代。そうして完成した施設は、果たしてどのような問題をはらんでいるのか。ブライダル施設の空間デザインの第一人者であり、10年、20年続く会場を生み出してきたザ ホールデザイン(長野県松本市)の杉山敦彦社長は、そもそも写真映えを最優先にするプロセス自体に警鐘を鳴らす。結婚式の本来の意義を考慮すれば、家族の歴史の重みに耐えうる【器】を作っていくという覚悟が必要であると。

 

 事業としての成立も考慮

――最近の結婚式場のデザインは、SNSを意識して【写真映え】がかなり重視されていて、それは結果的に全国どこでも同じような施設の量産に繋がっていると見ているようですね。

杉山「建物を設計していく上で本来は大きく4 段階あります。整理すると、①物理、②時間、③物質、④視覚という順番。つまり写真映えとは視覚ですから、実は最後のステップに位置付けられます。ところがこのステップを真逆にして、最初に写真映え=視覚からスタートしている。そのために、これから10年、20年持たせる空間としての価値は薄らぎ、写真では良いけれど実際に行くと違う、またトレンドの変化にすぐに置き去りにされるデザインとなり、数年周期で終わらない改装のループに入ってしまいます。」

―― 4 ステップを具体的に教えてください。

杉山「まず物理とは、建物として絶対に避けられない条件。例えば太陽の光はどこから入るのか、時間や季節によってどう変化するのか。暑さ、寒さ、風、湿度をどう扱うか。今は空調を完備して室温をコントロールし、外の環境を感じさせないようにしがちです。ただ、それは大切なものを捨ててしまっている可能性もあります。光、匂い、気温、音などの季節ごとの空気感は、結婚式という特別な一日の記憶を思い起こすスイッチにもなるはずです。また温度一つとっても全てをコントロールしようとすれば、それだけの設備も必要になります。設備が増えれば投資や維持費も増える。そこで事業の問題にもつながってきます。稼働率50%でも利益の出る状態かなど、事業として成立させることまでを考えます。それ以外に、厨房・サービスの動線も含め、建築と運営の骨格を最初に決めます。」

杉山「2番目の時間は、その土地や建物が持っている履歴です。もともと庭のある場所なのに、『リゾートっぽいものがおしゃれだから』と、違うものを上からかぶせて本当にいいのか。もちろん古いものを全て残すということではありません。何を残し、何を消したのか、明確な理由が大切。単に今の世界観に合わない、写真で古く見えるからという理由だけで消してしまうのは違うということです。そもそもその土地や建物には経てきた時間があり、それをどう次につないでいくかも考えるべきでしょう。実はそれは、結婚式とすごく相性の良い考え方。建物の時間と2 人の成長してきた時間が、たまたま結婚式の一日だけこの場所で交差する。デザイナーはそれを、1 つのストーリーとして渡してあげなければいけません。なぜこの場所で結婚式をするのか、という理由にもなりますから。」

杉山「3 番目の物質は、素材です。今は木目調のシートでも、写真では本物の木に見えます。ただ結婚式は実際にその場所に新郎新婦、ゲストがやってきて、手に触れ、歩き、椅子に座るわけです。もちろん全部を本物にするのは投資の限界もありますから、どこに本物を使うかを考えます。特に人の手に触れるところ、自然光の当たるところ、長く残していきたいところには、時間の経過によって劣化するのではなく、逆に味・魅力になっていく本物を使うべきでしょう。」

――写真映えの視覚は、最後になります。

杉山「物理が正しく、時間が残り、物質が正直であれば、その結果として視覚は立ち上がります。これが逆になっている状況は、最初にこういう写真を撮りたいから、その写真を成立させるために素材を決める。予算を下げようとなれば、本物ではなく工業製品をどんどん使って似せていく。そうすると、本来の土地や建物の持っている時間に関係なく、どこかで見たことのある同じような空間になります。写真映えを最優先にしていると、SNSのアルゴリズムの変化によって、そのデザインはすぐに時代遅れになってしまい、そのたびに施設も変えなければならなくなります。そもそも結婚式場とは本来そういう場所なのか。結婚式を挙げた新郎新婦にとって、やはり10年後、20年後も残っていることは大切なはずです。」

――フィルムカメラやレコードといったアナログのモノに魅力を感じる若者が増えている状況にも注視しています。

杉山「デジタルネイティブ、さらにAI世代は、はじめからノイズのない世界にいるわけです。それに対しフィルムカメラは撮った時にはどう写っているか分からないし、レコードも傷などでノイズを生じさせます。ノイズのない世界に囲まれていたからこそ、不便さやノイズが新鮮に感じるのではと。結婚式も本来、スマートなイベントではなく、両家の親族が交わす気まずい沈黙、父親の震える手、新婦の抑えきれない涙など、人間臭い【家族の業(ノイズ)】の時間・場所です。そうした人間臭さを受け止められるかどうかを考えれば、空間デザインにおいても光、温度、空気を含め、完璧にコントロールして量産するのではなく、もっと空間独自のノイズがあって良いと考えます。匂い、風、光の具合、手触りなど、五感に訴えかけられるかどうかであり、そのためには写真映えからスタートする発想を捨てなければなりません。」

――人間の五感は、AIでは理解できません。つまりそうした部分を追求していくことこそ、デザイナーの役割であるのかもしれませんね。

杉山「AIは使い分けを明確にした方が良いと考えます。使うべきなのは、面積配分の複数案、照度の検討、動線の干渉チェック、会議用の比較画像など。一方で先に人間が決めるべきは、厨房とゲスト動線、窓と西日、触れられる面の素材、残す時間、低稼働時の損益など。そう考えるとデザイナーの価値とは、画面では区別できない質感と絵にできない骨格を、着工前にしっかりと固定することです。AIは、二つの家族が交差する瞬間の【予測不能な緊張感】や儀式の持つ【生々しい熱量】を、決して計算できません。その点では、リニューアルにおいても絵の枚数を求めるのではなく、人間のノイズを受け止めるための覚悟ある空間の余白を考えていくことは大切でしょう。」

(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、9月11日号)