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準備期間の満足度向上を目指す【八芳園 取締役総支配人 関本敬祐氏】

準備期間の満足度向上を目指す【八芳園 取締役総支配人 関本敬祐氏】

2月から9月末まで全館を一時閉館し、現在改装工事に着手している八芳園(東京都港区)。10月1日の再オープンに向けて、現在準備を進めている。ハードを一新するだけでなく、リニューアルを機に様々なテコ入れを図っており、取締役総支配人の関本敬祐氏は、「業界全体での変化が求められている」と話す。新卒で八芳園に入社し、現場経験を積んできた同氏自身も感じてきた課題とは何か。改装プロジェクトと合わせて話を聞いた。

 

カップルとスタッフの不安を解消
――10月1日のリニューアルオープンまで約4ヵ月。今回の改装において大きく変わるうちの1つがウエディングサロンで、既存の広さから2倍に拡張する予定です。関本さん自身も感じていた『課題』をベースに、様々な着想を得ていったようですね。
関本「私たちの仕事は結婚式という無形商材を取り扱うもので、要は当日まで蓋を開けてみないと分からないことも多いわけです。例えば、ブーケ。サンプルや画像をベースに花材やカタチを決めていく流れが一般的な一方、式当日どんなブーケになるのか、カップルは不安とも言えます。式場によってはデッサンを描くケースはあるものの、お二人にとってのベストは何かを考えた時、『実物を見て確かめたうえで、安心して当日を迎えたい』に尽きるかと。この不安はカップルだけでなく、プランナーとフローリストなどスタッフにとっても同様です。式に関わる人たちがベストなコンディションで当日を迎えられる環境を整備していくことは、業界全体に求められていると感じていました。こうした課題を解消するため、今回の改装では、フラワー専用のアトリエをウエディングサロンに併設。ガラス張りになっており、打合せ中のカップルの様子は外からでも見えるデザインです。このアトリエでは、実際に打合せの中でフローリストがブーケを作成していきます。そうすることで、不安は解消され期待値と満足度は高まりますし、自ずと単価も上がってくるはず。重要なのは単価アップのための施策ではなく、こうした取り組みを通じて、結果単価も上がるということ。そもそも結婚式は高額商品ですから、それに対する付加価値、体験価値を提供できなければ、不満は募っていくはずです。『結婚式は無形商品だから、式当日まで分からないのは当然』という考えは、八芳園も含めた事業者都合の“甘え”とも言えます。婚礼業界にとって当たり前だった言い訳部分に、改装を機に改めて“メス”を入れていこうとの想いです。」
――リニューアルオープン以降施行を予定しているカップルに対して、写真、映像、フラワーの担当者指名制度を提案していきます。

 

待遇改善に繋げる指名制
関本「『フォトグラファー』という職業の括りで給与面を見ていくと、広告撮影など別ジャンルと比較して、婚礼カメラマンの賃金は低い傾向。いい人材を業界内で確保していくには待遇の改善も必要ですから、料金を上乗せできる指名制を通じて、その分は撮影企業とカメラマンにきちんと還元できるようにと導入に至りました。もっとも、指名制の提案強化となれば、結果ただのセールス活動になってしまうのも事実で、単なるスケジュール面での枠押さえは意味がない。そうではなく、企画内容で勝負し、その点でカップルの納得を得ようとの考えです。現在想定しているのは、それぞれのカメラマンで、結婚式前のサービス内容を変えてもいいのではということ。例えばカメラマンAさんは、複数カップル合同のワークショップをやってみる、Bさんは別のアプローチでカップルと事前コミュニケーションを取るなど。人で選ばれているからこそ、そのカメラマンの考えるアプローチを提供してみるのも面白いのではと思っています。」
――多くの式場・ホテルは、生涯顧客化に着手。八芳園も同様に、『生涯式場』を目指しています。
関本「婚礼業界でもLTVという言葉を使うシーンは増えた一方で、式後の話をする以前に、やはり結婚式の満足度を高めない限り、未来の話には繋がらないでしょう。八芳園で最重視するのは式当日の満足度で、そこに向けての時間も合わせて楽しんでもらいたい。お伝えした通りブーケの準備などは、打合せというよりも“イベント”への昇華を目指していく。プランナーとカップルの長い関係性を今後も期待するのであれば、やはり事前部分にあたる準備期間のテコ入れは重要です。前が良ければ後に続くという、言ってしまえばシンプルな“方程式”ですから、八芳園もそこを今一度見直し、再スタートに向けて準備を進めています。」

(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、5月21日号)