LISTEN to KEYMAN

キーマンに聞く

カジュアル婚先行の潮流にどう向き合う【フォーディメンション 代表取締役 森山 圭氏】

カジュアル婚先行の潮流にどう向き合う【フォーディメンション 代表取締役 森山 圭氏】

 結婚情報誌を中心としていたブライダルの集客構造が大きく変化している。この転換期において、婚礼・披露宴の事業をいかに維持し、進化させていくか。20年にわたりブライダル業界専門のマーケティング支援事業を展開してきたフォーディメンション(東京都中央区)代表取締役の森山圭氏に、生き残りのための戦略構築を聞いた。

――ブライダル業界の集客構造が転換期を迎え、従来の成功法則が通用しなくなっている。森山 地域差がありますが、単純に「結婚情報誌に出稿していれば成果が出る」とは言いづらくなってきました。市場の縮小に伴い、宣伝予算が他の手段・媒体に分散し、集客の重心そのものが変わりつつあります。

ただ、この市場縮小について婚姻件数の推移と比較すると、減少が目立つところでもあります。ギャップの原因を分析し、対策を講じれば、まだ盛り返しのチャンスはあると考えます。

――ギャップの原因は何か。

森山 本質的な話として、「結婚式場を探す前に触れる情報」そのものが変化しています。かつては「結婚するならゼクシィ」というキャッチコピーの通り、結婚を決めたカップルは最初にゼクシィを見る流れがありましたが、今はゼクシィを見て行動する前に、「フォトウエディング」「カジュアル婚」「プレゼント婚」等の情報に大量に触れる機会が増えています。一方で、コロナ禍以降、結婚式にゲストとして招かれる頻度が減り、その時々の経済的な理由や将来不安、人間関係の変化、親世代の価値観の変容等も影響し、能動的に結婚式場を探す人が減っているとも見ています。

これらの増えた情報に共通しているのは、いずれもSNSやWEBによる発信・広告である、ということです。「結婚式場を探す」という具体的な行動に至る前に、「写真だけでも」「簡単に済ませる」といった選択肢が先に届く構造になり、その結果、新郎新婦の検討軸が分散し、通常の婚礼・披露宴市場へ流入する母数が減っていると考えます。

フォトウエディングや少人数婚は、コロナ禍を機に一時的な需要を取り込むために各社が取り組みましたが、その後も継続的な販促が行われた結果、広告宣伝は飽和状態にあります。それが新郎新婦の目に届きやすくなり、披露宴市場の縮小圧力になってしまっています。

婚礼検討者の減少が目立つ背景には〝市場形成の前段〟の変化があり、市場の入口そのものが変わってしまったことが、現状の根底にあると考えます。

――ゼクシィの影響力が弱くなった、ということか。

森山 影響力が完全に消えたわけではなく、当社のクライアントデータを見る限り、ゼクシィのサイト閲覧数に大きな変化はありません。

ただ、ゼクシィのサイト経由の来館予約件数は減少が目立っています。ゼクシィそのものの影響力が弱くなったというよりも、検討途中で他媒体等に〝横取り〟されやすくなったこと、情報の閲覧から来館予約まで一直線に進む導線が崩れたことを意味していると考えます。

その象徴が、新規来館を3 件回ると特典がもらえるという施策の廃止です。良し悪しはともかく、この特典によって〝とりあえず複数の会場を回ってみる〟というカップルの行動を促していた側面もありました。これが無くなったことで、式場探しへの行動意欲や回遊行動が減退した面は否めないと思います。ゼクシィ経由の来館予約で取りこぼした層が、ホテル・式場の公式HPから予約する流れはあります。一見すると改善にも見えますが、総来館数そのものは減っており、単純な改善とは言えません。

――どのような対策が求められるのか。

森山 目先の施策として、大きく二つの考え方があります。一つは、自社の強みに合った顧客を狙い撃ちし、精度高く集客する方法。もう一つは、来館特典等で幅広く集客し、その後の接客で成約に持ち込む、いわば力技のような方法です。

後者は営業力を有する大手が得意としており、幅広く集客しても一定の成約率を維持するノウハウがあります。多くの地方会場や中小事業者にとっては前者の手段が望ましい…と言いたいところですが、その場合は必要な母数が確保できないという課題があります。目先の集客施策として〝何をやるか〟以上に、〝その施策を回し切れる組織かどうか〟が成否を分けます。

時間軸で捉えると、まず短期的には取りこぼした顧客をどう拾うか、自社HPからの予約をどう伸ばすか、口コミや表現設計をどう改善するかに着手し、改善を図る。中期的には、地域市場の実態をどう見極め、競合や隣接商圏との関係を踏まえて市場形成をどう設計するか。そして長期的には、商品設計や地域内での市場維持をどう考えるか。改装や商品開発、サービスレベルの向上、トレンド感の醸成、ブランド再定義や利益構造の改変、ビジネスモデルの変更等、多層的な対策を視野に入れるべきだと思います。

――この施策は全国一律に適用されるものか。

森山 商圏の状況と周辺環境によって戦い方は変わり、一律の正解は無いと考えます。

同一商圏内の戦いだけでなく、近隣により大きな商圏があれば、そことの戦いもあります。商圏防衛だけでなく、顧客を〝逆流〟させる発想も必要になり、実際、地方にある当社クライアントが近隣の都市部で開催されたブライダルフェスタに出展して地元出身層へ訴求し、婚礼客を取り返した事例もあります。

ゼクシィとの付き合い方も商圏によって変わってきます。掲載料金の実質的な値上げが進む一方、地域によっては営業体制の縮小を余儀なくされています。一部の地域では、ゼクシィの店頭販売を取り止めて希望者に配送する「お届けゼクシィ」の試験運用も始まっています。

ここから先は私の推察ですが、ゼクシィは紙媒体自体が残ったとしても、「結婚式場探し(+来館予約)」の機能が弱まり、「結婚および結婚式を意識させ、サイトへ誘導する認知媒体」として再定義され、それが加速するでしょう。

紙媒体の役割が残るのは、雑誌の送客力とSEO的な認知形成力がなお大きいため、また高額な掲載料金の相場を維持する目的もあります。しかし地方では、ブランド維持や大手企業からの広告費用回収のための手段にすぎず、お届けゼクシィの数年後には掲載企業の無いノウハウ本だけが届くか、何もなくなることも考えられます。

――AIを活用した宣伝・集客も重要になる。

森山 AIは広告表現や制作効率を底上げするための技術として有効活用が期待できます。

具体的には、撮影していない構図の補完、リニューアル後のビジュアル・コーディネート生成、スマートフォン表示に最適化された画像の再構成等、従来はコストや手間の面で難しかった表現改善が、AIによって現実的になりました。画像加工技術を持った会社がAIのノウハウを磨くことで、より多くのことが可能になります。広告・商品企画の補完機能や、プランナーおよびカップルの支援機能等も加速するでしょう。

その際に重要なことは「何をどう見せれば正しく顧客に届くか」という戦略と表現設計を、どのように意思決定し、コントロールするか、です。AI技術をどうマーケティングの実践場面に落とし込み続けるかが、今後の生き残りの鍵となります。今後の集客戦略は、まずは新郎新婦が結婚式場をどう認知し・どう検討し・どこで離脱するのか、という構造そのものを改めて捉え直すことが重要です。短期的な業績改善に加えて、中長期の視点に立った主体的な市場設計と商品設計まで踏み込むことで「厳しい状況だからこそ、まだ打てる手はある」ことを示していきたいと思います。

(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、6月1日&11日合併号)