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《人材不足 解決の一手》試用期間をあえて厚遇に設定【トキノスタンス 代表取締役 若林 由章氏】

《人材不足 解決の一手》試用期間をあえて厚遇に設定【トキノスタンス 代表取締役 若林 由章氏】

中小企業、パートナーを中心に、ますます加速するブライダル業界の人材不足。マンパワーが欠かせない結婚式の仕事は、どれだけ優秀な人材を確保、定着させられるかにかかっている。そこで今号から採用に関する、各識者のアドバイスを紹介していく。第1回は、ブライダル専門転職エージェントとして、大手企業を始め、幅広い取引先を持つ、トキノスタンス(静岡市葵区)の若林由章氏。最近は採用アウトソーシングのRPOコンサルを手掛けており、試用期間の有期雇用に関するポイントを語る。

――最近はRPOの依頼が増えているようですね。

若林「RPOとは採用活動全般のアウトソーシングであり、人事部を置けない、採用のプロを自社で抱えられない企業との取引が増えています。本来はブライダル企業にピッタリではあるものの、まだまだ浸透していません。現在は不動産、物流、美容企業などのRPOに対応しています。例えば美容企業では、人事部門も片手間の担当しかいなく、プレイングマネージャーである店長が採用・教育面で大きな役割を持つものの、OJT中心のためなかなか定着できません。さらに採用も年々厳しくなっている。そこで求人要件の設計からサポートし、どの媒体を使ってどんな求人を出すか。いわゆる0 次面接と言われる、会社の1 次面接前のスクリーニングも行っています。0 次面接を導入することによって、書類選考は通過させやすくします。求人票に必須条件を入れ、それをクリアしていれば、面接確定と書いておき、0次面接でスクリーニングする手法を取れば、自ずと応募書類の母集団は増えていきます。」

――ブライダルの中小零細企業でも生かせる方法として、応募してきた人たちをまずはトライアルで雇用する、試用期間を重視すべきとの考えですね。

若林「例えばRPOでサポートしている保険会社の場合、試用期間をなるべく厚遇にしています。地方でありながら、未経験者でも固定給は30万円。まずは試用期間で採用し、KPIを明確にしておきます。仕事に慣れるかどうか、パフォーマンスが上がるかどうかを見て、その後の正規雇用に切り替え。正規雇用に至るプロセスでは、マイルストーンを敷いて、試用期間を経てこういうことが出来るようになれば正規雇用になれますと伝えます。正規雇用になった場合は就業規則のルールに従ってもらう。そうなると、一旦固定給は25万円に落ちるため、その保険会社では30%が退職に至ります。ただ保険業界は正規雇用になれば、固定給にプラスしてインセンティブが発生。試用期間中の厚遇を、正規雇用となった後にも維持するためには、インセンティブを得られる水準まで頑張ろうと考えるわけです。この方法はブライダルにも活かせます。というのも、ブライダルの新規営業の採用であれば、成約率という分かりやすい指標があり、ある程度教えた段階で試用期間中にも担当を割り振れます。正規雇用後の新規営業にインセンティブさえ設けておけば、給与条件は変わりなくそのまま定着します。」

――試用期間の厚遇で採用数を確保し、その人自身も正規採用後のインセンティブによって試用期間中の目標が明確となりモチベーションアップ。正規採用後に活躍できる人材をそのまま定着させられるという点では、非常に面白い方法ですね。

若林「実際に多いのは、試用期間中を時給制にして、手取りで20万円を切るような冷遇の条件にしているケース。『君は見習いだから時給でこの金額』といった考え方も分からなくはありませんが、実際には逆ですよ。採用も厳しく、かつ未経験者ばかり応募してくる中小零細は、あえて試用期間を厚遇にすることで応募の母集団を増やしながら、仕事を吸収するモチベーションを確実に上げていくべきです。その期間だけ会社のお金を持ち出すという意味では、人材に対する投資という考え方で、採用要件を設計していくことは大切でしょう。」

――雇用契約について、仮に試用期間で能力に問題ありとなった場合、会社から契約を切ることは可能ですか。

若林「週30時間以上働かせるのであれば、社保への加入は必須。その上で、試用期間を明記した有期雇用契約書を結びます。大前提として有期雇用契約書なのか、無期雇用契約書なのかを記載する部分を設け、有期契約の場合は期間の日付を入れます。例えば11月1 日~ 4 月30日と記入して、半年後の更新の条件も明示。自動更新の場合には、業績、会社の経営状況などのチェックマークを設けておきます。そこに契約期間満了時の業務量、勤務成績・態度、能力を入れておけば、試用期間でその基準を満たしていない場合には、会社から契約を更新しないという決定をしても問題ありません。」

――採用した人材が、試用期間を経て結局辞めてしまう可能性も否めません。

若林「先ほど、保険会社では30%が辞めてしまうと指摘したように、当然基本給の減少だけを考える人は退職してしまいます。ただ、振るいにかけるという意味ではメリットもあるかと。インセンティブを含めて条件は変わらない、もしくはさらに高まる、いわば実力のある人だけが残るわけですから。もちろん、インセンティブを得られるという自信を付けさせるためにも、試用期間だからと事務作業ばかりではなく、新規接客の方法などスキルのトレーニングは大切です。試用期間の教育がぞんざいで、ただ先輩と一緒に同席する程度で放ったらかしにしていると、正社員になる・ならないと言われたときに、不安だなと思い残らなくなります。一方で、保険や住宅販売などと比較すれば、ブライダル業界の場合、退職率はそこまでではないとの見方もしています。他の業界はインセンティブ比率も重く、その分収入ありきで入ってくる人材は多い。ブライダル業界はインセンティブの設定もそこまでではないですし、また半年間一緒に結婚式の仕事で働いていると、チーム意識が高まり、仕事の魅力を感じる機会も多いですから。仮に条件が悪くなっても、一人前のプランナーになるために頑張ろうと、そのまま定着する可能性は高いはずです。」

 

 

(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、11月11日号)