LISTEN to KEYMAN
キーマンに聞く

ホテルウエディングの可能性【フォーディメンション 代表取締役 森山 圭氏】
宴会・MICE需要の高まりを受け、ホテル宴会場の改装や活用を見据えた計画が進められている。これに伴って婚礼事業もテコ入れを図り、部門の再構築につなげる動きが出てきた。フォーディメンション(東京都中央区)代表取締役の森山圭氏は、ホテルウエディングは、新郎新婦や披露宴に参加するゲストに、ホテルの魅力や強みを体験してもらう「宣伝」の好機として捉えるべき、と提言する。
――最近、宴会場を持つホテルが、MICE需要の高まりを受けて宴会場を改装し、それに伴って婚礼事業のテコ入れも図ろうとする動きがある。
森山 良い流れだと思います。MICEと披露宴に求められる機能は完全には一致しないものの、宴会場の演出機材や空間の品質向上を図るタイミングで婚礼・宴会のバランスを再検討するブランディングの好機ですし、両立もし得ると思います。ホテルではありませんが、八芳園(東京都港区)の大規模改装はその典型です。宴会場を残しながら婚礼を切り捨てるよりも、両立を見据えた動きを取った方が、今後も高い次元の事業継続が実現するでしょう。
――ホテルの中には婚礼部門に対する悲観論も見られる。
森山 国内全体で捉えると、ブライダル市場は短期間で大幅に変動するようなものではありません。地方の一部の施設や、もともと婚礼事業が瀬戸際にあったような施設は落ち幅が目立つかもしれませんが、それ以外は概ね維持していたり、むしろ成果を上げていたりしています。新郎新婦に目を向けても、ダブルインカムで稼いでいるカップルもいれば、業種によっては賃金が大きく上がっているカップルもいて、誰もが一様に苦しいわけではありません。これを前向きに捉えて結婚式ニーズを創出するチャンスだと見ることもできます。むしろ、ホテル内の婚礼事業に対する理解度の低さや、部門主義、単年会計などの弊害により、婚礼事業の評価をより下げる風潮のほうが問題です。
――フォト婚や〝カジュアル婚〟に流れるわけでもない。
森山 そもそも、フォトウエディングはゲストと心を通わせることも、食事を共にすることもできません。私が考える婚礼事業の本質は、「ハレの場を皆で祝福し、ゲストに感謝の気持ちを伝え、食事を共にすること」に対価が発生するという点にあります。フォトウエディングやカジュアル婚、および訪日外国人旅行者のインバウンド婚は、こうした本質とは少しずれていて、ホテルや結婚式場のビジネスの構造上、主流にはならないと見ています。過去にも通常のフォーマットを少し崩したスタイルのウエディングを提供してきた事例はありますし、メディアとしても取り上げやすいと思いますが、市場全体で見れば傍流に過ぎません。もし仮に「フォトウエディングにシフトしろ」と言い出す経営者がいたら、結婚式を事業ではなく頭数としか見ていない証拠だと思っています。
――ホテルウエディングのメリットとして、専門式場やハウスウエディングに比べて広告のコストパフォーマンスが高い=来店単価が安い点がある。
森山 その通りです。全体のブランディングがきちんとなされているホテルは、来店の反響や顧客層もしっかりしている傾向にあり、広告宣伝費の効果はハウスウエディングよりもよっぽども大きいはずです。にもかかわらず、来店・成約組数が伸び悩んでいるとすれば、ホテル内で、婚礼部門の評価が低いことに起因していると思います。宿泊部門は利益率が高く、OTAや旅行会社への手数料を支払っても収益の大部分を粗利益として見込めますが、婚礼部門は宴会やレストランなど他の事業・サービスとまとめて計上されることもあり、それらのコストや付帯サービスの売上の割り戻しなどもあって、実際よりも利益が薄く見えてしまうことがあります。「婚礼は儲からない」「広告費が嵩む」といったイメージが、婚礼事業の縮小や広告費の削減につながり、来店組数が伸び悩む。自ら武器を手放していることに気づかないまま、悪い循環になっているのです。
――改めて、ホテルが婚礼事業を伸ばすために何が必要か。
森山 やはりまずはハード面、チャペルと宴会場の整備が第一歩になります。ウエディングセレモニーにふさわしいチャペルや自然光や眺望を楽しめる宴会場などの「売れるハード」が、人材・セールススキルを育てる土壌を作ります。その上で、ソフト面として単年度で収支を合わせようとする発想からいったん離れることが重要になります。婚礼事業の立て直しは、最低でも3 年単位で考えるべきです。1 年目は集客目標の達成、2 年目に成約目標を加え、3 年目からサイクルを回す――このくらいの時間軸で捉えるべきです。これは、集客から来店、成約、結婚式当日までに1 年前後の時間を要することと、ホテル単独では大手ウエディング企業のように集中的な投資注入が難しい、という構造的な課題を考慮したものです。
――それでも投資判断が難しいホテルはどうすれば良いか。
森山 個人的には既存のチームに私がサポートする形で伸ばせるという自負はありますが、社内リソースが信頼できない場合、立て直しの過程において、外部企業への事業委託も選択肢としてあって良いと思います。その場合、婚礼事業をホテル本体の業績から一時的に切り離すことができます。業績不振の根本的な原因がはっきりしないまま、単年で結果を出すことを求められ続けるくらいなら、いっそ外部に任せた方がうまくいくかもしれません。ただし、そうしたとしても、「ケチな社風」のままでは結婚式にふさわしい会場としての説得力が生まれないので注意が必要です。
――地域によっては、若い世代が少ないケースもある。
森山 今は「地元」よりも、新郎新婦それぞれの親族・関係者にとって集まりやすいロケーションが選ばれやすい傾向にあり、大都市圏の中心部にあるホテルは当然強いです。カップルは減り続けるので、この流れは加速するでしょう。ただし、若者が地域に留まるような要素、具体的には進学先や就職先がある地域は若者が残り、婚姻件数および婚礼組数も維持されやすく、その地域に根差したカップルの婚礼需要を取り込めるチャンスがあります。結婚式は、誕生日や七五三、進学・就職など、あらゆる「記念日」の入り口になり得るコンテンツです。しかも、新郎新婦が招待する何十人ものゲストに、結婚式やパーティー、施設の魅力を体感してもらう、いわば「お金をもらいながら行う宣伝」の機会でもあります。だからこそ、自信を持って結婚式を作り続けることが、ホテルそのものの評判や将来のチャンスにつながります。ホテルウエディングは、決して斜陽ではありません。やり方次第で十分に成長できる分野であり、市場の減衰スピードよりも大きな成果を出せる余地は、諦めていないホテルにこそ残されています。
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、9月1日号)

