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《TOPICS》フリーランス保護法を解説【ブライト 代表取締役 夏目 哲宏氏】
8月の台風の際に結婚式延期を決めた会場が、ひとり社長の司会会社に直前で仕事をキャンセル。司会会社としては延期先日程のアサインが出来なかったため、仕事自体が無くなり、それまで重ねていた打合せ等の料金も支払われなかった。結果として、司会会社は司会に対する打合せのギャラを、自社で負担しなければならなくなった。こうした事例は、11月以降フリーランス保護法の適用となり、公正取引委員会から罰則を受ける可能性も出てくる。フリーランス、ひとり社長会社との取引も多いブライダル業界では避けては通れず、11月1日の施行前に今一度社内チェックが大切だ。そこで今号では、ブライダル法務事務所ブライト(東京都港区)夏目哲宏代表取締役の解説も交えながら、施行後のポイントをおさらいしていく。
独禁法・下請法との違い
「これまでも独占禁止法、下請法によって、いわゆる【下請けいじめ】を規制してきました。独禁法では優越的地位の濫用を規制していて、ブライダル業界であれば、会場がパートナー企業に対してお節やディナーチケットなどの購入を強制すること、無条件でブライダルフェアに人を出すよう強要するといった行為も禁止。さらに下請法では、発注主である会場による、下請けに対する不当な取扱いを規制していました。ただ下請法には適用されるための2 つの要件があり、その一つが資本金要件。それではひとり社長の会社を含むフリーランス保護には不十分ということで、フリーランスとの取引全てを対象にしたフリーランス保護法が公布、施行された経緯があります。」(夏目氏)
前述した下請法の適用対象となる、資本金要件については図1 の通り。ブライダルで該当する取引内容に照らし合わせていくと、まず会場運営企業の資本金が5000万円超の場合には、資本金5000万円以下の下請けパートナー企業との全ての取引が該当。会場運営企業の資本金が1000万円超~5000万円以下の場合にあっては、資本金1000万円以下の下請けパートナー企業との取引に限定される。さらに資本金1000万円以下の会場運営企業の場合には、そもそも下請法の規制対象にはならなかった。
「ブライダル業界では会場運営企業の資本金が1000万円以下という可能性もあり、その場合、弱い立場であるフリーランスに対する【下請けいじめ】は、これまで規制されることはなかったわけです。フリーランス保護法は資本金制限をなくしたことで、フリーランスに発注する事業者は全て規制対象となりました。またフリーランスの定義については、個人事業主だけでなく、法人化をしていても社長以外の役員・社員のいない、いわゆるひとり社長の会社も含まれます。例えばその会社に業務委託で働いているスタッフがいても、社員でなければフリーランス保護法で保護される対象です。」(夏目氏)
これを前提に、フリーランス保護法施行前の準備に必要な、会場として押さえておくべきチェックポイントとは。
4つのチェックポイント
◎チェックポイント1 (書面作成&交付の義務化)
同法の規制内容として、発注時の「書面」作成&交付が義務化された。長年の取引関係の場合によく見受けられる、口頭での発注、またLINEでのやりとりによる発注自体が違法となる。
「フリーランス保護法では、書面、メールなどの方法で、要件を明示してから依頼をしなさいとなっています。もちろん発注の度に毎回契約を取り交わすのも大変でしょうから、共通項目だけを事前に契約書などで明示した上で、個別の具体的な発注をメール、LINEで対応するといったことは可能です。書面にて各種条件を明示しておくことによって、フリーランスにとっても、当初は5 万円と言われていたのに、後々になって4 万円だったというようなトラブルも無くなります。」(夏目氏)
明示すべき内容としては、期日の明確化と共に報酬額も記載が必要だ。また、キャンセル料規定、解除の期日についてが含まれていることで、冒頭に記した自然災害によるキャンセルの際の対応も自ずと明確化されることになる。
◎チェックポイント2(支払い期限は60日以内)
フリーランスへの支払いは、給付の日から60日以内となることで、支払いスパンは最長でも末締め翌月末払いまでだ。支払いスパンが翌々月10日では、70日となるため、その取引は違法である。一方、ブライダル業界の場合、【会場➡下請企業➡フリーランス】という、いわば再委託の取引も多い。
「下請企業が中間に入りフリーに再委託する場合は、下請企業にとっては会場から60日間代金を支払ってもらえない可能性も出てきて、そうなるとフリーランスへの支払いが先出しになりキャッシュフローも悪化します。そこで下請企業は会場からの支払い期日プラス30日以内に、フリーランスに支払うことも可能です(図3 参照)。ただし会場からはいつ支払われるのかなど、所定の事項を明示した、フリーランスとの契約書が求められます。」(夏目氏)
◎チェックポイント3(7つの禁止事項)
発注主が守らなければならない、7 つの禁止事項もあげられている。これは下請法と同じルールであるが、その中でも注意すべきなのが⑤~⑦。
⑤・購入や利用強制の禁止
お節、ディナーショーのチケットなど、下請けに物品の購入を強制するケースがブライダル業界ではまだまだ常態化している。では、強制とはどのような行為を示すのか。
「公正取引委員会の示している具体事例を見てみると、まず『業務委託先選定に影響を及ぼす者が購入や利用を要請すること』とあります。つまり業務委託選定に影響力のある会場の支配人が、物品の購入などを要請するだけでもここに該当します。また、パートナーごとに目標額を決めて、物品の購入や利用を要請することも禁止となっています。さらに、一度断られたのに、『重ねて』購入や利用を要請することも、強制の対象となってきます。」(夏目氏)
会社としてはコンプライアンス遵守で強制のないように注意をしていたとしても、販売ノルマを押し付けられた現場支配人が、独自でパートナー企業に購入を要請するケースも多々ある。それも違法であることを認識した上で、現場の支配人教育などを通じて徹底していくことが必要となる。
⑥・不当な経済上の利益提供の禁止
ブライダル業界ではフェアへの協賛、また決算対策などのための協賛金を集めるといった行為がここに該当する。パートナー企業に対して、今後はより慎重な対応が求められる。
「例えばフェアを実施するから、無償でカメラマンに撮影に来てもらうといったケースがあります。これも場合によっては、不当にあたります。ポイントとしては、フェアに無償で協力することによって発生する負担額や内容と、フリーランスの【直接の利益】が明確であれば問題ありません。一方で、【間接的な利益】は不当とみなされます。これはどういうことかと言うと、そのカメラマンは本来有償で受けている仕事を無償で対応しているわけで、それに見合う対価を約束できるかどうか。単に『フェアに協力すれば、他のカメラマンより受注は増えるから』といった根拠のない話で依頼するのは、その負担に見合うのだけの【直接の利益】を明確にしているとは言えません。その協力に対して、具体的にどれだけ仕事が増えるのかなどを明示することが問われてきます。」(夏目氏)
⑦・解約料不払い等の禁止
冒頭でも紹介した、台風などの自然災害の際に発生する結婚式の中止に伴う負担を、パートナー企業に負わせるのはこの部分に引っかかってくる。自然災害以外の解約についても同様だ。 「解約料について、会場側の言い分である『うちも泣いているからパートナーも泣くのは当たり前』というような発想は改めていく必要があるでしょう。会場と新郎新婦の契約、会場とパートナーとの契約は別ものであり、例えば台風で結婚式が延期になったとしてもパートナーとの契約上は関係ないわけです。どのような理由であっても、一回発注したものを会場から解約した以上、その場合どうするのかをあらかじめ契約で明示しておくと共に、きちんと解約に伴う分の料金を支払わなければなりません。」
社員向けの教育も必要
◎チェックポイント4(育児・介護等への協力や各種ハラスメント予防に資する環境作り等に向けた対策義務)
契約しているフリーランスから介護、育児に関する協力を依頼された場合は、会場としても必要な措置を講じる努力が今後は必要とされる。
「セクハラ、パワハラも同様で、大前堤として社員がハラスメントに遭わないための環境作り、発生した時の適切な対策は、会社の義務になっています。これを6 ヵ月以上取引のある社外のフリーランに対しても、キチンと適用していく必要があります。全社員に向けて、相手が下請けだから、フリーランスだから許されるということはないと、教育をしていくことも大切です。」(夏目氏)
取引関係において、会場が圧倒的な力を持つブライダル業界。これまでも独禁法、下請法の様々な規制があったものの、違法な対応は多々見られた。文中でも指摘しているお節などの購入の強制、解約料の不払い、フェアへの強引な協賛依頼。それ以外にも些細なミスで報酬を減額、現場で横行する過度なパワハラ・セクハラなどなど。契約書すら取り交わしていないケースもあり、【パートナー】とは名ばかりで、主従関係を声高にアピールしてくる現場支配人もいるほどだ。
こうした状況に対し、大量の仕事をもらっているという負い目により、パートナー企業側からなかなか問題提起しにくかったのも現実だ。ただ、こうした悪しき関係性が、フリーランス保護法の施行によって、今後ブライダル業界全体の信用力を大きく損なうリスクもある。
「一部ニュースでも出ていますが、11月のフリーランス保護法に合わせ、公正取引委員会は違反状況を幅広く調査するようです。フリーランスに対して調査票を送り、その実態を掴んでいくわけですが、それにより違法状態の蔓延している業界を炙り出していくという見方も出来ます。悪質な取引の横行している業界であると公正取引委員会からチェックをされれば、ブライダル業界が集中的に調査される可能性も出てきます。違反のあった場合には査察も入りますし、悪質な場合は罰金や不正に得たものを返さなければなりません。またフリーランス保護法の施行により、世間的な注目が高まっている以上、査察を受けただけでもニュースなどで報道されるリスクも出てくるでしょう。さらに違反企業の名前、その内容は公正取引委員会のHPに何年間も掲載され、そうなれば当該企業だけでなくブライダル業界全体のイメージ悪化に繋がります。だからこそ適正な対応を今から準備しておくことは大切です。」(夏目氏)
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、10月21日号)

