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『人』を重視する企業文化 【Daiyu 代表取締役 宮腰 真里氏】

『人』を重視する企業文化 【Daiyu 代表取締役 宮腰 真里氏】

 鎌倉の中心エリアから離れた立地ながら、ワンバンケットで200組超を施行している萬屋本店(神奈川県鎌倉市)。現在はゼクシィ出稿も行わず、自社集客戦略とリピーター型の確保によって注目の人気施設となっている。同店を運営するDaiyuの宮腰真里社長は、【人】を重視し、その熱意が多くの新郎新婦を惹きつけると語る。だからこそ規模を追わずに、企業文化の浸透を図ってきた。今号、次号の2回にわたって、同社のユニークな戦略を追っていく。

他会場と競合しない強み
――萬屋本店の開業は10年前ですが、その経緯は。
宮腰「大手ブライダル企業を退職し、プロデュース事業をスタートしたのが20年前。ある時、酒蔵のオーナーと出会い、店舗兼住宅であったこの物件を紹介されました。鎌倉は鶴岡八幡宮を中心にしたエリアに結婚式場も集中しているのに対し、当施設は鎌倉駅からも離れた長谷に位置しています。ただ、開業時から立地条件はそれほど関係ないと思っていました。結局のところ【人】が場所や事業を作るものであるからこそ、【人】を重視した本当に価値のある結婚式を提供さえしていれば、アクセスに関係なく多くの新郎新婦から支持されるだろうと。この物件との出合いは大きかったものの、たとえ山奥にある施設であっても結果は変わらなかったと感じています。」
――実際に、鎌倉エリアの他会場と競合することは少ないということですが。
宮腰「当会場は競合と比較しても独自性を持っていて、しっかり差別化できています。そのため来館するカップルを見ても、複数の会場を回遊して比較検討するというより、『萬屋本店だけ見て決めた』という人の方が多いです。まず、当会場はゼクシィに掲載をせずに、特殊なマーケティング戦略を展開しています。もう一つの特徴としては、ゲストとして参列した経験がある、あるいは知人からの紹介という、いわゆる【リピーター型】中心。一般的な施設情報を見ながら候補を絞り込んでいくという従来のカップルよりも、自分たちの想いやブランドにこだわりを持った人が、事前に入念にリサーチし『ここで結婚式をしたい』と思って来館します。何となくの検討ではなく、はっきりと意思を持って来てくれているので、いくつも会場を見てみたい、アクセスが不便といった話にはなりません。」
――リピーター型が多いのは、勝利の方程式ですね。
宮腰「新郎新婦からの紹介は、とにかく多い。結婚式をした新郎新婦とは単なる営業的な関係ではなく、人と人とのつながりにまで深まっていますし、中には結婚式後に当社で働きたいと、入社してきたスタッフもいます。もともと萬屋本店の開店以前はプロデュース業を手掛けていて、私はプランナーとして現場に携わっていました。そのため経営や組織のトップというよりも、顧客と直接向き合うプランナーに近い立場であり、そのスタンスは萬屋本店の原点にもなっています。顧客が何を求め、どうしたら満足するかを理解し、それを実現する結婚式を提供していく。プロデュース時代から、【現場こそ命】という信念を大切にしていましたし、それが今回収されているという感覚です。例えばゼクシィに広告予算を投じていないのも、その費用を結婚式に来てくれる顧客に還元した方が、期待を上回る価値を提供できるとの想いからです。投資の方向性を外向けではなく、顧客への価値提供に集中させてきたイメージですね。」
ショータイムの意識で仕事
――本質で勝負するためには、当然ながら現場のクオリティは必須になります。そのためにプランナーをはじめ、現場のスタッフ一人ひとりの力量を磨き上げてきました。
宮腰「私自身、早い段階から【人】がすべてだとこだわってきた中で、では何が必要かと。結婚式を担当できるスキルを持っているかどうかということではなく、『お客様に喜んでもらいたい』という純粋な気持ちを持った人の集まるチームにするという面を何より大切にしてきて、それが現在の萬屋本店の強みです。仮に多少のミスがあったとしても、顧客に対する熱量さえ伝わっていれば、ミスに対して寛容に受け止めてもらえるのは当然のこと。そうした想いに共鳴したメンバーが、それぞれ強い志、熱量を持って新郎新婦に接していれば、新郎新婦にもその【熱】は伝わっていきます。最終的に、一生に一度の結婚式をこの人たちに任せたいという形で成約につながっています。社内でよく話しているのは、常に【ショータイム】だと思ってほしいと。清掃の時も、準備の時も、新規接客の時も、当日施行でも、全てがショータイム。頑張るという意識ではなく、自分たち自身でショータイムを楽しみながら仕事をする。そうした一人ひとりの姿こそ私たちの“商品”です。新郎新婦は一生懸命楽しそうに働いているスタッフの姿に心を動かされるわけで、その姿を素直に見せることを大切にしています。」
宮腰「熱意が伝わるというのは、やらされてやっているのか、それとも自分の意志でやっているのかの違いにあると感じます。自ら、どうしたら新郎新婦に喜んでもらえるかを考え続けられるかどうか。それを高めるためにも、私は『今の接客は素晴らしかったね』、『電話対応、良かったよ』と日々の業務の中でとにかくスタッフに賞賛の声を掛けることを重視してきましたし、今ではスタッフ同士でも同じように認め合う文化になっています。肯定感の高まりによって自分の意志で動くことへの自信も付いてきて、萬屋本店のスタンダードとして浸透しています。大切なことは、理念を紙に書いて貼り出すのではなく、日常に染み込ませていつでも自然に表れる状態にしていく。それが結婚式でも自然に出てくるように意識して作ってきた結果として、多くのファンを獲得できていると考えています。」
拡大路線とは一線を画す
――【人】を大切にしているからこそ、多店舗展開などの事業拡大は難しいかとも思います。
宮腰「無理に拡大をしていけば、理念や想いはどんどん薄れていってしまいます。そうならないように、規模を追うのではなく、少数精鋭で“太い軸”を作ってきました。いわば金太郎飴のように、どこを切っても同じ理念が滲み出るような企業です。商品性や施設力ではなく、想いを持つ人材の集合体であるチームこそ、これからの時代に生き残り成長するのではないでしょうか。」
――もともと、一度は結婚式ビジネスに対して興味を失ったこともあるそうですね。
宮腰「今から20年近く前、ゲストハウスが次々に登場して拡大路線を図っていた時期に、その一つの会社で働いていました。退職前に就いていたのがクレーム処理担当。実際に当時は数多くのクレームが舞い込んでいて、それに対し形式的に謝ってお金を返すことはできても、本当に申し訳ないという気持ちを持って対応する人はいない状況でした。そこで私に任されることになったのですが、クレーム対応は本当に大変な仕事でしたし、会社を辞めた時に、ブライダルの仕事は今後絶対にしないと思ったものです(笑)。ただ同時にその時に感じていたのは、当たり前のことですが、本来結婚式の仕事はユーザーに喜ばれるものでクレームになるはずもないのに、何故こんなにも大量に発生してしまうのかと。改めて考えると、クレームが数多く発生するという状態は、企業として贅肉まみれで根本的な問題を解決できずに、放置したままであるからこそ。退職後にプロデュースを依頼され結婚式ビジネスに復帰したわけですが、その時の経験もあって、私は筋肉質で想いのぎっしり詰まった組織を作ろうと考えました。そのために目指すべき目標も10億円、100億円といった売上ではなく、1組たりともクレームを出さないという日々の積み重ねに主眼を置きました。この考えを実現するために必要になるのは【人】であり、その後同じ志や想いを持つ仲間も増えていき、今の組織になっています。」
両想いになれる集客を
――ゼクシィへの掲載を行わない一方、自社ブログやSNSなどによる自社発信での集客に注力してきました。その考えとは。
宮腰「もちろんゼクシィに掲載していた時期もあって、そうすると確かに集客はできました。ただ、来館した人たちが本当に成約につながっているか?という点で見ると、結果として、当会場との相性はあまり合わないことも多かったわけです。ブログやSNSといった自社発信のメディアを通じて来館した新郎新婦は高確率で成約しているのに、ゼクシィ経由はなかなか決まらない。ある意味で、現在のブライダルマーケット自体が私たち向きではないのかもしれません(笑)。広告によって来館者数をどれだけ増やしても、成約率が悪ければ意味はありませんし、そうなるとスタッフのモチベーションも下がってしまいます。これは根本的に意味がないのではと思いました。」
宮腰「とはいえ、マネージャークラスのスタッフは施行組数に対する目標を持っていますから、来館のパイを減らしたくないという意識もありました。ただその議論をしても平行線をたどるだけなので、最終的にはトップダウンでゼクシィは止めると、一昨年に決断しました。中には、今でもゼクシィを使った方がいいと考えているスタッフはいるかと思います。ただ私は、自社に合った顧客像を明確にし、こういう人たちに来てほしいというセグメントが大切だと思っています。理想はそうした新郎新婦が自然と集まってくることで、結果として今はリピート型の割合が増えていること、自社集客の展開によってそのような状態になっています。自社に合わない人たちの来館は、スタッフの悩みも増えていきます。自信を持って接客しているのに、なぜ決まらないのだろうとプレッシャーに感じる。今まで積み重ねてきた想いやモチベーションに、疑問を感じる可能性も出てくるでしょう。それを防ぐためにも、初めから私たちと【両想い】になれる新郎新婦を探す方が、最終的に失うものも少ないわけです。ゼクシィを止めたことで集客が減少し想定された利益を失うよりも、スタッフの心がどんどんすり減ってしまえば、それは会社にとってより重大な損失ですから。」
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、8月1・11日合併号)