LISTEN to KEYMAN
キーマンに聞く

連載12《今こそ基本に立ち返る 地方施設のプッシュ型集客》あらためて問う「強い集客」とは何か【ティール 代表取締役 工藤 慎也氏】
本連載ではこれまで地方式場を事例に、アナログ施策の再評価からゼクシィの活用、情報マネジメントや紹介営業、エージェントとの関係構築に至るまで、地方における集客のリアルと実践的な対応策を取り上げてきました。「地方=困難」ではなく、むしろ変化の最前線であるという視点のもと、現場に根差したマーケティングの地力を掘り下げてきたつもりです。
市場規模の小さい地方は、婚姻届出組数の減少はもちろん、コロナ禍による列席の減少、ゼクシィリニューアルによるメディアパワーのダウン、既存出稿屋号の撤退及び本誌出稿量のダウンによる流出入の加速、フォト婚・プレゼント婚の増大による披露宴層の減少など式場の変化を直接的かつ即時的に受けています。最近は、短期的な成果を求める施策が目立つ一方、消費者の意思決定はより複雑化しています。
こうした状況において、今あらためて問いたいのは「強い集客」とは何か。これは単に目先の数字を上げるということではありません。認知から来館、成約、さらにその先の紹介や評判に至る一連の体験をどう設計するか。そしてその全体像のなかで、各チャネルがどのように機能し、どう補完し合っているのかを捉える「全体最適」の視座は欠かせません。例えば、ゼクシィ本誌で認知されたカップルがゼクシィnetを経て自社HPから予約するというスライド構造。あるいはSNS広告の成果と思われていた反響の多くが、実は媒体起点だったといった事例は珍しくありません。チャネル単位での評価ではなく、チャネル間の連携や役割分担を俯瞰して見る必要があります。
そうした中でしばしば登場する「自社集客」という言葉。コストのかからない集客モデルとして理想視されがちですが、実際にはその多くは媒体や他チャネルの影響を受けて成り立っています。ゼクシィから自社HPへのスライド、プレゼント婚による反響の置き換えなど、複雑な構造を理解しないまま成果を誤認するリスクも存在します。情報設計においても同じです。HPやポータル、SNSなどチャネルごとの施策に加えて、「どこで知っても、違和感がない」ような横断的な統一感は今後さらに求められていくでしょう。情報を正確に届け、来館につなげるという機能的な目的だけでなく、ブランドとしての信頼感や誠実さを伝えることが、意思決定の後押しになります。
そして最後に伝えたいのは、「集客」は企業の哲学やブランド姿勢と密接に関係している、ということです。「どうすれば選ばれるか」から「どんな関係を築くか」へ。集客という言葉の意味が変わりつつあるいま、私たちは戦略や施策の前に、まず在り方を問われているのかもしれません。
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、8月1・11日合併号)

