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キーマンに聞く

《地方ブライダル企業の地域密着戦略》旅行需要創出に貢献する【サムシングフォー 代表取締役 岸本 裕子氏】
地域の資源を、いかに結婚式に取り入れていくか。市内に3施設を展開しているサムシングフォー(岡山県倉敷市)は、美観地区のロケーションを売りにしたプロデュース『倉敷婚』を推進してきた。さらに地域産業のデニムを使ったドレスを制作するなど、結婚式流出地域を盛り立てている。『理念式』の可能性を含め、岸本裕子社長に聞いた。
インバウンドからの問合せも増加
――今年の2 月には、地元倉敷の新渓園で【花嫁和装ショー】を開催し、盛況だったようですね。
岸本「新渓園は大原美術館の別邸で、倉敷の美観地区作りに尽力した倉敷紡績の初代社長大原孝四郎さんの別荘でした。綺麗な庭園もあり、当社ではそこで結婚式も受けています。いわば地域の象徴的な場所を使って和装ショーをやってみたいと、現場のスタッフから声があがり、昨年に引き続き2 回目の開催となりました。キャパも限られている中、当日は70名が来場し満杯に。当初は和装だけに振り切ったショーに、どれだけ反響があるのかという不安もありました。ただ昨年1 回目を開催したところ、集客は確かに難しかったものの、その後の和装の受注率が150%にアップ。今回は集客を強化するため1 月にはイベント告知もSNSを中心にスタートして、結果3 倍に増加しました。」
――倉敷の歴史ある建物での開催ということで、和装にも合っていたかと思います。
岸本「和装離れは当然あるわけですが、改めて良さを見直してもらえる機会になったかと。若い人たちにとって触れることも少ないですし、そういう意味では実際に和装を着用したときの花嫁のイメージはついたのではと考えています。倉敷の街並み、歴史ある建物との相性も良かったですね。今後も継続的に開催しながら、地域の企業に何かしらの協力を仰いでいくほか、地元メディアにもどんどん発信してもらう働きかけを進めていきます。」
――サムシングフォーは、会場運営だけでなく、倉敷の街を舞台にしたプロデュース【倉敷婚】も展開しています。まさに地域密着の取り組みかと。
岸本「もともとがプロデュースからスタートしている会社ですし、現在も倉敷婚、フォトなどを希望する問合せは多く、そこから会場での結婚式に繋がるケースもあります。最近増えているのは、海外インバウンドからの問合せ。自然流入というか、SNSのダイレクトメッセージから直接英語で問合せが入ってきます。先日も香港の夫婦の撮影に対応しました。問合せは英語なので初めは大丈夫かなとも思ったのですが(笑)、2 人で倉敷に来て写真を撮りたいということでした。そこで感じたのは、その2 人も倉敷での撮影を探しあて、ここまで来るのに結構苦労しているなと。インバウンドについてはこれまで要望があればというスタンスでしたけれど、今年からはきちんと入口を設計していき、そうすればもっと需要は獲得できるだろうと考えています。倉敷婚では瀬戸内の無人島【鯨島】での結婚式にも対応していますが、その島を所有している企業がインバウンドに強いということもあり、今後は海外需要を見越したコラボも進めます。」
――結婚式、フォトを通じて、インバウンド誘客の仕組みを作っていくイメージですね。
岸本「宿泊なども必要なため、旅行代理店にも絡んでもらいます。また行政にも協力してもらう。海外にアプローチしていくためには、行政との連携は重要であり、地方にインバウンドの流れを作っていくという点では、ストーリーも描きやすいですから。ルート作りも含めて、今年は整備を進めながら、来年に向けて準備をしていく予定です。地方会場の新しい生き方として、ウエディングコンテンツを観光の中で活用していく取り組みは、今後さらに求められてくると思っています。」
――倉敷婚の取り組みはいかがですか
岸本「コロナ前に地元のメーカーと制作したデニムウエディングドレスに関して、最近県外からの問合せが増えています。新しい商品は、意外と地元よりも外に響くのだと驚いています(笑)。もともと倉敷は結婚式の流出エリアで、それを打開するためにも地域の観光資源、特産品を利用して地域の結婚式文化を作っていくということを使命にしてきました。それに対し、最近は外の人から支持されることが多いという感じですね。流出している岡山市から結婚式を取り戻すというのもありますし、それ以外の場所からツーリズムの一環として利用してもらうのも一つの考えです。その点では、リゾートウエディングのような動きも必要になってくるでしょう。例えば倉敷の川船での結婚式は一つの成功事例で、『川船に乗って白無垢で結婚式をしたい』といった県外からの需要を創出できています。」
――結婚式をするカップルに夫婦の理念を作ってもらい、それを挙式に反映していく理念式をこれまで進めてきました。夫婦の理念については、旅行との絡みもあるそうですね。
岸本「2 人の様々な想いを引き出しながら、お互いの幸せの定義を一つの言葉として明確化していくもので、あくまでも理念を決めるのは2 人。私たちは、それを導いていく役割です。これまでは挙式に反映させていく目的を持っていましたが、例えば旅行先で夫婦の絆を深めるために理念作りを行い、さらに理念を確かめ合う式をするといったことも可能ではと考えています。もちろん、必ずしも式ありきでなくてもいいわけです。夫婦の絆作りをサポートできる商品企画も、今後は進めていきたいですね。そうすれば、旅行需要を高めたいホテル・旅館にとっても、宿泊とセットにした一つの体験型コンテンツを提供できるはずですから。」
岸本「現在、ノウハウを広める目的で、FC展開も進めていて、今年の3 月には名古屋、山梨の会場と契約しました。夫婦の理念が広がるにつれ、様々なケースの利用も増えています。例えば、LGBTQのカップル。先日もLGBTQの2 人が旅行がてら当社に来て、夫婦の理念を作成しました。またFC会場では、ソロウエディングにも対応したそうです。家族で再出発をしたいと考えていた人が理念を作り、節目の儀式を開催。多様化の進む中、様々な事情に応じて理念を作りたいと考える人は出てきますし、それを確かめる式の形も結婚式に限らないはず。特に地方では旅行とセットにすることで、日常と離れた場所で自分、自分たちのあり方を見つめ直す機会を提供でき、結果としてそれを目的に人が来てくれるというのはメリットにもなると考えています。」
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、4月21日号)