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キーマンに聞く

〈全国B.M.C.合同企画〉:ホテル宴会サービスのProfessional Mind:経験値を教育によって補完【京王プラザホテル 料飲宴会部 宴会サービス 副支配人 武井 真理子氏】
全国の婚礼支配人にホテルWの可能性をリレー取材してきた全国B.M.C.との合同企画、今こそ!ホテルウエディング。今号からは【Professional Mind】をテーマに、ホテルバンケットで活躍するプロフェッショナル達を取り上げ、卓越した技量、ホスピタリティ精神を紹介していく。第1回目は、京王プラザホテル(東京都新宿区)の宴会サービス副支配人・武井真理子氏。現在は女性も増えている宴会サービスの仕事であるが、女性マネージャーとして活躍している人材はまだまだ少ない中で、その軌跡を追った。
【見て学ぶ】の新人時代は失敗の連続
2006年、京王プラザに入社。宴会サービス、料飲部で半年間ずつ研修を経験したのち、2007年に正式に宴会サービス部門に配属された武井氏。コロナ禍の2020年に介添えを1 年間担当していたものの、翌年には戻っており、それを考えても実質宴会サービス一筋の道を歩んできたといってもいい。
小さい頃から旅行のパンフレットを見るのが好きで、さらに高校生の時に修学旅行で行った海外のホテルに魅了されホテルマンを目指した。専門学校の研修が京王プラザホテルの料飲部だったこともあり、そのまま同ホテルへの就職も決めた。
「宴会サービスの経験は全くなく、希望していたどころかむしろ初めの頃は嫌で嫌で仕方なかったですね(笑)。今では魅力だと思える毎日異なる仕事にもなかなか慣れず、何をやっていいのかさえ分からない。研修の半年間は本当に辛く、配属された後も3 年間は何とか我慢していたのが正直な心情でした(笑)。」
当時の宴会サービスは、圧倒的に男性社会。『女にできる仕事ではない』、『女にキャプテンなど絶対に無理』という雰囲気であったという。ただ、当時同ホテルには先輩にあたる2 人の女性キャプテンがいて、彼女たちは武井氏の目標にもなった。
また当時の現場教育は、【見て学ぶ】が全盛。上司や先輩から懇切丁寧にイチから教えてもらう機会はほとんどなく、それこそ失敗の連続だった。卓上表示を反対に付けてしまう、ステージ転換のタイミングを間違えるなど何度も失敗を重ねながらも、同時に負けたくないという気持ちに変わっていった。
「まさしく耐えて、耐えて(笑)経験を積んでいくと、次第に様々な宴会に対応できるようになっていきました。そうすると、周りの目線もどんどん変化します。まず顧客の要望に対して自信を持って応えられるようになったのは大きなポイントですね。そうなると任されることも増え、『この宴席は武井にやってもらいたい』となります。自分でも、宴会をうまくオペレーションできるようになったと感じ取れていきました。」
何度も辞めたいと思いながらも経験値を高め、初めてキャプテンを務めたのは5 年目。当初は少し緊張しながらではあったが顧客と接する機会は増え、8 年目でようやく自信もついてきた。要望にスムーズに応えられ、アドバイスもできるようになった。
「アシスタントだった時に先輩と一緒に入ったある宴席を、その数年後にキャプテンとして担当することになりました。宴席についたとき、参加者から『あなたに担当して欲しかったからずっと探していた』という一言をもらいました。私の印象、接し方に共鳴してくれた人がいたのだという想いで、自分の仕事はきちんと顧客に伝わっていると初めて実感できた瞬間でした。その後もキャプテンとしての指名が多く入り、そうした顧客とは10年以上の長いお付き合いになっています。営業の側面からも、現場でいい関係性を築けるかはサービスマンの一つの指標です。」
現場経験を経て、2023年に副支配人に就任。今度は自らの後進を育成し、マネジメントする立場となった。もっとも時代は大きく変化しており、どう対応していくのかが重要だ。
ホテルの教育の仕組みも変化している。研修制度についても武井氏の入社当時は1 年間で2 部署を経験した後、1 年後に本配属であった。現在は半年かけて宿泊、宴会、料飲の主要3 部門全てを回り、横の繋がりを得たうえで本採用になる。
若手スタッフ中心に教育マニュアルを作成
「私の時代は辛かったとはいえ、下積みとして色々な経験値を積ませてもらってからキャプテン業務を務めるという流れには、良かったところもあります。今は少ない人員で対応しなければならず、必然的に経験値がそれほどないままにキャプテン業務をスタートさせなければならない。知識・経験の補完は大切で、以前のように【見て学ぶ】ではなく、あらかじめしっかりと教育した上で、ヒントを与えつつ現場でうまく運用できるようなマネジメントが必要になっています。例えば当ホテルは婚礼事業を縮小したため、現在はわずかな件数しか対応していません。技術、オペレーションの伝承はやはり大切ながら、月に1 件程度では現場で【見て学ぶ】では圧倒的に足りない。そこで結婚式についても資料を作って教え、現場で吸収させるプロセスを重視しています。」
また現在は、新入社員の男女比率も女性が80%を占める。男性社会の意識を組織、従事するスタッフから払拭しなければならない。その意識転換も武井氏に託されている役割だ。
「教育マニュアルはもちろん、トレーナーのチェックリストなど、5 年前に入社したスタッフたち主導でどんどん作り上げています。若いスタッフが自分たちで考え、新しい人に教えるにはこうした方がいいという目線は大切。それを私の方で吸収し、意見を出し合いながら必要な要素を付け加えています。現在は現場で活かしている段階で、徐々に変化を感じています。」
一方、コロナにより宴会業務がストップしたため、ホテルクオリティのスキル、マインドの連続性が失われた面もある。今まで自然に出来ていた対応が出来ず、椅子引きのタイミング一つとっても当たり前だった動きになっていないなど。宴会サービス力が下がっていると感じることもあるという。
「サービス向上には、社員がしっかりと実践し、配膳スタッフ、アルバイトスタッフがそれを見て学ぶという流れも大切です。ただ社員も経験値の少ない中でキャプテンを任されているため、そこで大きな不安を抱えてしまうのも事実でしょう。だからこそあらかじめ手順などをしっかりと教え、宴会サービス終了後に必ずどうだったのかをフィードバックすることを重視しています。今は細かくケアをしていくことが必要だと思っています。」
(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、4月11日号)