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芸人のスキルでコミュニケーション強化【漫談家 風呂 わく三(わくぞう)氏】

芸人のスキルでコミュニケーション強化【漫談家 風呂 わく三(わくぞう)氏】

撮漫談家として、定期的に浅草東洋館に出演している風呂わく三氏。芸のスキルを、学校・企業向けのコミュニケーション講座でも活かしている。企業研修の依頼のほか、筑波大学では教師を目指す学生向けに講義を経験し、さらに10年以上前から東京都の指定講師として、毎年20以上の都立高校で講習を行っている。漫才時代の『ツッコミ、ボケ』の掛け合い、舞台上から客席への目線の使い方など、コミュニケーション力を高めるコツとは。

 

名付け親は歌手の吉幾三

――わく三さんの芸人としてのキャリアを教えてください。

わく三「芸人の経歴としては、1999年に漫才からスタートしました。当時いた相方と一緒に、浅草のものまね芸人『はたけんじ師匠』の下を訪れたものの、師匠はとにかく忙しく面倒を見切れないからということで、歌手の吉幾三を紹介されました。錦糸町の居酒屋で吉幾三と初めて会い、漫才をやっているのであれば名前が必要だと、私が【風呂わくぞう】、相方が【飯たくぞう】と名付けられました。芸人としてのキャリアは、かれこれ25年を超えています。その後、漫才を辞め相方とは別れ、今は浅草の東洋館という演芸場、かつてビートたけしさんがエレベーターボーイをしていた元ストリップ劇場ですが、そこで定期的に漫談の舞台に立っています。」

――芸人の世界は生活していくのも厳しいイメージですが。

わく三「師匠と言われる人の中にも、隠れてアルバイトをしなければ食べていけない世界です。私は当初から事務所に入っていなかったため、売り込みをしてくれるマネージャーもいないですし、オーディションの話も来ない。そこで営業という形で現場に出ていました。営業主流の方が実はお金になるので、他の人よりも早く食べれるようになりました(笑)。パーティーの場などで、司会とセットで漫談をという依頼も多いです。」

――コミュニケーション講座を始めたのは、どういうきっかけだったのですか。

わく三「漫才を辞めてからです。それまで漫才しかしていませんでしたから、とにかく色々なことをやり始めました。司会もそうですし、格闘技のリングアナウンサーも経験しました。そんな仕事をしていると様々な人と繋がり、その一人に筑波大学の教授がいました。教授からは、生徒と教師の関係はボケとツッコミの関係。芸人のキャリアを活かして、何をしてくるか分からない生徒に対し、どうツッコミ、どう切り返すのかという内容の講座を作って、将来先生を目指す教育課程の学生対象に講義して欲しいと言われました。教授の誘いで一度授業をしたところ、好評だったためにその後3 年ほど継続し、それをきっかけにコミュニケーション講座を本格的に始めました。」

――喋りの上手な芸人であれば、コミュニケーション講座もお得意ですね。

わく三「ただ、芸人なら誰でも出来るわけではないと思います。その場その場で単に面白いだけでは駄目で、やはり学びですから。面白い人はたくさんいて面白さは伝えられても、大切なのはこれを分かって欲しいというポイントであり、学びにしていくのは難しい。例えば現在、東京都の教育委員会の指定講師として、都立高校でコミュニケーション講座を任されています。年間で28校ほど割り当てられ授業をしていて、そこではコミュニケーションが苦手であっても、とにかく自分や他人を否定しないでほしいということを伝えています。」

わく三「企業研修ではチームワークを中心に、例えば上司の部下に対するコミュニケーションの取り方、その課題と解決方法などを伝えています。ちょっと発想を変えてみる、目線の使い方を工夫するなど。実際、様々な人とコミュニケーションを取るためには、自分の発想を変えて、少し柔軟に考えていかなければなりません。そこで研修内容の一つとして、新しい文字を作ってもらいます。例えば【金】という一文字に何かを足して、新しい文字と意味を考えていく。【上手い】、【面白い】というものも出てきて、笑点の大喜利風イメージで進めています。これは頭の柔軟性を高める目的で、それぞれ新しいものを考えることで、これまでの発想もアップデートされます。またあまりコミュニケーションの巧みでない人が【上手い】という言葉を作ると、他の人はそれをプラスに受け止める。つまり、この人はコミュニケーション下手という、周りの人の考えもブラッシュアップされ、結果として考え方も柔軟になっていきます。」

――芸人のボケとツッコミは、コミュニケーションでどのように生かしていけますか。

わく三「漫才には台本があって、話す、話を聞く、聞いて返す、それに対してボケる、ツッコむとというコミュニケーションの基本が全て詰め込まれています。そこで漫才の台本を、2人1 組で試してもらいます。最初は台本を見ながらの棒読みであっても、2 人の特徴は出てきます。喋り方もそうですし、目線をどこに置いているか。自分なりの感想と他の人からの評価を書いてもらい、そこからコミュニケーションについて話をしていきます。」

――目線の使い方も大事ということですね。

わく三「例えば芸人でも、舞台で客の顔を一切見ない人もいれば、ちゃんと目を見て話す人もいて、実はその違いはまざまざと表れます。中にはあえて客の顔を見ないという芸人もいますが、多くの場合はコミュニケーションスキルの欠如で顔を見れないケース。実は新宿にある寄席の末広亭で、ある噺家さんが同じ世代、同じ人数の人たちを集めてテストをしました。一つは実際に目線を合わせて、客に訴えかけるように話す。二つ目は、客に目線を全く合わせないで話す。20分の高座でどういう違いが現れたかというと、最初の10分までは全く笑いの量は変わりませんでした。ただ10分以降になると、大きな差が出てきて、目線を合わせている方は客もどんどん引き込まれていく。一方、全く目を見ない方では、携帯をいじりだし、中には寝てしまう客もいました。舞台の話だけでなく、ビジネスの場面でも目線はやはり大切です。」

――先ほどの都立高校での講座ですが、大人数を対象にしているそうですね。

わく三「10年ほど続けていますが、1 学年全体を対象に1 回200名~300名で、2 時間の内容です。今の生徒はとにかく参加をしない、目を見ない、返事をしない。前に出たがらない。最初の方はこちらに注目をしてくれる人を中心に進めていましたが、そうすると学べる人は限られてしまいます。5 年ほど経ってから、とにかく消極的な生徒にどんどん入り込んでいくように切り替えました。積極的な生徒は自然と参加してくれますから、全体を導くためにもそうでない人をとにかく相手にしていく。これは芸人の舞台と一緒で、客席には色々な人のファンがいて、必ずしも自分の芸を見に来たわけではない。中には友人に連れてこられた、それほどお笑い好きではない人もいるでしょう。そこで全体を笑わせるためには、同じ理屈となります。」

わく三「講習内容としては目線に関するものと、もう一つテストも行っています。初対面で苦手な人を相手にして、もうこの人無理だと思ってしまえば、そこでコミュニケーションは終わってしまいます。だからこそ絶対に嫌いにならないよう、相手のいいところを探していく考え方は必要です。そこで例えば【優柔不断】といったネガティブな言葉を、見方を変えてプラスに転換していきます。コミュニケーションの第一歩である、プラスに捉えるトレーニングでもあります。」

 

(詳細はブライダル産業新聞紙面にて、5月1日号)