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キーマンに聞く

【約束】を果たす責任【東京會舘常務取締役 星野 昌宏氏】
組数、単価共に前年を上回り、来期はさらなる積み上げを狙っている東京會舘本舘(東京都千代田区)の星野昌宏常務へのインタビュー。前回は業績好調な要因と、現場視点から作り上げていく商品開発のアプローチを紹介した。後編となる今回は、極端に持込みが減少している背景と共に、同社の結婚式が何故これだけ評価されているのかを掘り下げていく。顧客との約束を果たすために、責任と覚悟を持ち、細部にまでこだわり抜く姿勢がある。(後編)
ニーズに細かく応える
――持込みに関しても、年々激減しているそうですね。
星野「ドレスの持込みは、半期に施行した500組中わずか10組。ヘアメイクに関しても、わずか1 組だけでした。東京會舘としては、持込みの場合の様々なリスクを説明すると共に、なぜ内製商品をオススメするのかを論理的に説明したペーパーも渡しています。持込みは原則全てお断りで、それを納得してもらって契約しています。持込みになると、当日の責任を会場として持てません。仮に何かが足りなくても当社の責任ではないのですが、それなのに結婚式を始められないという事態になれば、否応なしに巻き込まれます。それならば、全て私たちに任せてもらい、何かあれば全ての責任を取らせて欲しいと話していて、最終的には理解してもらえます。さらに内製化の価値をいかに語れるかも大切で、その点は安心感を含め、パートナーと積極的に価値の高まる商品開発を進めています。」
星野「例えばヘアメイクについても、この2 年でトレンドは大きく変化していて、よりナチュラルが求められてきています。そこで大事になるのはヘアカット。美容のハツコエンドウはもともとカットのできるスペースも持っていますので、このトレンドをチャンスととらえ現在ブライダルヘアカットの商品化を検討しています。当日の髪型をベストにするために、数ヵ月前からのカット、コンディションづくり、パーマのかけ方を含めて対応していく。それは1つの価値となりますから。こうした一つひとつのニーズに細かく応えていければ評判も高まり、結果として持込もうという考えすら無くなっていきます。我々は持込みを駄目だと言っている代わりに、必ず責任を持ってリスクテイクをする。仮にヘアメイクに不安があれば、担当者を変えても良し、何度もやり直し可能ですから、安心感のために1 個1 個の細やかな工夫を大切にしています。」
――現場視点で考えていくことは、持込みヘッジだけでなく、クオリティ維持にも大切です。星野「結婚式は準備がものすごく重要で、当日の本番に至るまでいい流れを作らなくてはなりません。ある新郎新婦から、スイッチングレターの希望がありました。挙式前に、チャペルの前室に置いた手紙をゲスト全員に手を取ってもらい、ただその時点ではまだ封を空けない。入場後、挙式の始まる直前に聖歌隊の声かけで封を開けて温度感を高め、その瞬間2 人が入場するという流れでした。これを実現するためには、まず全員分の手紙がきちんと揃っているかのチェックは必須で、そこで担当の私自身が前日2 人と一緒に、一つひとつ目の前で確認しました。その後、当日の挙式前にも再度全員分あることを確認してもらいました。何故そこまで細かい確認をするかというと、結婚式はその時間にその物が一つでもなければ何の意味も無くなってしまうからです。1通でもなければ、その演出は台無しになってしまう。新郎新婦が大切に思っていることだからこそ、現場でも万全に準備しなければなりません。事前に読まないでもらうための案内、さらに聖歌隊による封を開けてもらうという声掛けも含めて、全スタッフに共有しながら、リハーサルを行いました。」
――何かあった時に全責任を取るという考えであれば、そこまでやることは大切ですね。星野「例えばウェルカムグッズは、持込まれることも多いからこそ一番怖いと思っています。仮にそこに写真立てが入っていたとして、当日設置しようとして立たなかった場合、誰が責任を取るのか。それを考えれば、持込まれたその段階で立つか立たないかを2 人の目の前でお互いに確認しなければなりません。壊れていたのは持込まれた段階なのか、それとも会場保管時または設置時なのかも明らかになりませんし、だからこそ細かく確認していく。私自身がそうした姿勢を見せることで、プランナーの意識も自然と上がっていきます。会場のブランディングを考えた場合、どっちの責任なのかというやり取り自体、マイナスにしかなりません。東京會舘への期待値を考えれば、細かく確認することもまた安心感となり価値になります。」
――ある意味で新郎新婦と【約束】をし、それを準備から当日までの流れの中で果たしていく。成約者向けの試食会に参加すると、料理はもちろんのこと、サービススタッフ数も多く、サービス技量・スキルもあって心地よい時間を感じられます。ただあくまで試食会であるため、実際の当日にはスタッフの力量にも差があるのではと思っていたのですが、配膳会のパートナー企業に聞いたところ、全く遜色ないということでした。
星野「試食会は、成約者の人たちに【約束】をする場です。当日並みの装飾、料理、サービスを体験してもらい、ゲストにも同じような空気感を過ごしてもらうから安心してくださいと。試食会を単価アップの手段として捉え良く見せたとしても、結局当日に同じように出来ていなければ嘘をついていると言われます。試食会のみならず、新規接客や打合せでの一つひとつの言葉に対して約束できなければ、信頼など得られるはずもなく、結果として不信感しか生みません。今目の前にあることを、当日も必ず実現しますよと言えるかどうか。そのために全力を尽くしますという、覚悟と決意はいわば当たり前だとも思っています。試食会では総キャプテンが、うちのサービスとはこういうものですと説明していますので、同じクオリティを提供しなければなりません。」
――ミスに対する責任の取り方もまた、約束を果たすために徹底しています。
星野「先日も、披露宴で主賓にスープをかけてしまうミスが発生しました。そうした場合には、クリーニング代を出しますというだけでなく、男性であればスーツ、女性のワンピースやストールも揃っているので、すぐに着替えてもらう態勢になっていて、また自宅まで汚れたまま帰してはいけないとハイヤーもしくはタクシーを準備しお送りするようにしています。同時に、何故こうしたミスが発生するのかについても徹底的に検証。先日の例では、高砂に多くのゲストが集まって写真を撮っている時に、サービススタッフが無理に入ろうとし、スープを注ごうとしたところで手に触れてしまいました。二度とこうしたことが起こらないよう、キャプテンミーティングで高砂に人が集まっているときはスープ、さらには熱いボンファムは出さないと明確にルールとして伝えました。ミスに対する対応はもちろんのこと、何か起こった際にはすぐに現場目線で改善していかなければ、約束しているクオリティは守れません。」
星野「こうした細かいことを考えていると、金曜日の夜には眠れなくなります(笑)。総キャプテンや総支配人室のメンバーともよく話すのは、それこそ楽しかったと思う瞬間はごく一瞬で、それ以上に責任へのプレッシャーはとにかく重い仕事だと。ただそこまで気を配っていくのがプロの仕事であり、そして東京會舘です。大切なのはプレゼンテーションに重きを置くのではなく、顧客との約束、つまりプロミス型の商品プロダクト、オペレーションを追求していくことで、それが結果として東京會舘の結婚式の付加価値となり、信頼は繋がっていくと考えています。」

