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【業界の旗手vol.49】社員と“結婚”する覚悟で育成を(エスプレシーボ・コム 代表取締役 安東徳子氏)

【業界の旗手vol.49】社員と“結婚”する覚悟で育成を(エスプレシーボ・コム 代表取締役 安東徳子氏)

 「時間と労力をかけて採用したスタッフが、また辞めてしまった」。ブライダル業界で、この言葉を耳にすることは少なくないだろう。やる気に満ち溢れていた人が辞めていく、本当の理由は。エスプレシーボ・コム(東京都中央区)の代表取締役・安東徳子氏は、「社員と“結婚”する覚悟を会社が持つことが重要」と、6月20日のブライダル産業フェア内セミナーでポイントを語った。

スーパーなどで昨今、当たり前に見られるようになったセルフレジ。ファストファッション店にも導入され、人工知能はさらに広がっていくという見方が一般的だ。ブライダル業界はどうだろうか。
「結婚式は高額、かつ手に取れない無形商品。また、アイテム同士の組み合わせも複雑で、専門知識も必要です。毎日購入するモノではない非日常商品でもありますから、ウエディングプランナーによるきめ細かい接客は、AIではカバーしきれない『感情労働』と言えます。要するに、婚礼業界にとって人材は今後もマストです。当たり前の話ですが、従業員を大切にしない会社はスタッフが辞め、そして業績が悪化するという負のサイクルに陥ります。だからこそ、辞めない社員の育て方が、今必要なのです。」

婚礼業界と人材不足は切り離せない問題。辞めていく理由は複数あるというが、これらはあくまで表向きなものだという。
「『合わない上司との人間関係がイヤだから』に始まり、やりがいを感じないから、低賃金だから、企業風土がイヤだからなど。ヒアリングをすると様々な理由が聞かれますが、これらはあくまで後付けです。辞めていく理由は実はもっとシンプル。働く会社が『嫌い』なのです。長時間労働や休日数などに関しては条件面になるので、比較的手が付けやすいと言われていますが、改善しても辞めていく人はいます。単純に、その会社が嫌われているのです。自社を嫌っている人には、どう説得してももう手遅れ。離職率は社員に嫌われている会社かどうかを見極める数字とも言い換えられるため、就活中の学生らは見過ごせないのです。」
スタッフに愛される会社になるには、経営者やマネージャ―クラスの人材が、社員と“結婚する”覚悟を持ち、努力していく必要があるという。
「例えばFacebookとApple。女性はキャリアと結婚・子育てを両立させていくという問題を抱えがちです。この2社は卵子の凍結を費用負担しており、女性がキャリア形成しやすい制度を設けています。社員食堂が無料で使える企業も増えてきました。もちろんここまでやるのは簡単なことではないので、あくまで例えの話ですが、人材育成に関して、それだけの対応が必要な時代になっているということ。1人1人のスタッフに、それだけの愛情を注げるかがカギなのです。数ある企業の中から1社を選び、働いていくということは、運命のパートナーを選ぶ“結婚”と一緒なわけです。会社や経営者がその意識を持って、スタッフを育てていくという強い覚悟がなければ、愛情は育まれず、嫌われ、結果辞めていくのです。」
愛情を表現するには、時間を割き、声掛けをするというシンプルな行動が重要だ。
「スタッフが愛を感じるには、評価されているかが大事な要素です。細かい評価制度の導入をすぐに検討する会社も多いですが、まずは上司が部下に興味を持って下さい。設定した目標を達成できているか。結婚相手と向き合うようにマンツーマンでしっかり見て、PDCAサイクルを回していくのは、もはや当然と言えるでしょう。」
「また、上司が『ありがとう』を言ってくれないとスタッフが漏らしているのをよく耳にします。このたった一言で、スタッフは愛情を感じるのです。愛を注いでくれていることが伝われば、会社を嫌いにはならない。大々的な評価制度を導入する前に、こうした簡単な、すぐにトライ出来るベースを作り上げることが必須です。」

「経営に重要なビジョン、ミッション、バリューも結婚生活に置き換えられます。『入籍後はこんな夫婦になろうね』と話すこともあるかと思いますが、会社では、数年後どんな人材になっていたいかのビジョンを考えることで、将来像を描けるように。『夢のマイホームのために、5年後には貯金を倍にしよう』といった計画は、何をするべきかという会社における自身の仕事の役割分担を明確するミッションに繋がります。そして、『あなたがいるから幸せ』と、お互いを尊重することで、価値観、バリューを形成できる。このマネジメントの初歩中の初歩が、現場で実践できているかどうか、経営者層は今一度立ち返ってみて下さい。」

スタッフを辞めさせない特に効果的な方法が、「未来告知」だという。
「例えばインフルエンザ。40度近い熱が出るけれど、期間は約3日。5日後には外出できるようになるというのを知っているからこそ、落ち着いていられるわけです。一方で、インフルエンザの概念がなければどうでしょうか。このまま死んでしまうかもしれない、と思う人は多いはずです。要するに、この先どんなことが待ち構えているかを事前に把握していれば、仕事上でも何か問題が起きた時、『こんなはずじゃなかった』という考えを避けられます。」
「4月は新入社員で多くの企業が活気づく季節ですが、その1ヶ月後には、社会人として働く辛さを大半のスタッフが味わうでしょう。ですが、これは誰もが抱く成長過程の感情です。『5月には辞めたいと感じると思う。だけど、来年の春には入社1ヶ月のあの時、辞めなくてよかったと実感出来るよ。みんなが感じる辛さだから、心配しないで』と、声を掛けてあげてください。上司や先輩からの事前の一言で、辞めたいという感情を抱いたとしても、『この先にはやりがいを感じられるから大丈夫。続けてみよう』と、落ち着いて現状を受け止められるのです。」